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エンタメ

93歳の「終わりのない旅」――渡辺貞夫、75周年の年に(連載「一心不乱の75年」第3回)

による 寝ても覚めてもエンタメ天国 a.k.a.エンゴク
2026年10月29日 1分で読める
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全米のジャズ・チャートに名前を載せた「世界のナベサダ」は、そこで旅を終えなかった。ブラジルで録音し、ネルソン・マンデラの歓迎集会で吹き、世界の子どもたちと同じ舞台に立った。そして2026年、93歳で文化功労者に選ばれる。連載の最終回は、1985年からいままでの40年をたどり、渡辺貞夫が何のために吹いてきたのかを考える。

目次

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  • 自分で音をつくる
  • 子どもたちと吹く
  • 平和を願う音
  • 75周年の年に
  • 終わりのない旅

自分で音をつくる

1985年、渡辺はロサンゼルスで『MAISHA』を録音した。初めて自分でプロデュースを手がけたアルバムである。翌1986年には、芸術選奨文部大臣賞を受けた。

1980年代の後半、渡辺はブラジルとのつながりを一段と深めていく。1988年にブラジルで録音した『ELIS』はジャズ・チャートの1位になり、翌1989年の『FRONT SEAT』は全米のジャズ・チャートで1位を取った。1965年にボストンで関心を持ったブラジルの音楽は、20年余りをかけて、渡辺の代表作を生む土地になったのである。

同じ1988年には、ロサンゼルス市から名誉市民賞も贈られている。

子どもたちと吹く

1990年、渡辺は東京の日比谷公園で開かれた、ネルソン・マンデラの歓迎集会で演奏した。1972年に初めてケニアを旅して以来、アフリカは渡辺にとって何度も通う土地になっていた。

1990年代の半ばから、渡辺の活動には、もう1つの柱が加わる。子どもたちである。1995年、渡辺は栃木の中学生に、ブラジルの打楽器を使ったリズムの教育を始めた。この年には紫綬褒章を受け、かつて学んだバークリー音楽大学からは名誉博士号を贈られている。

2005年の愛知万博では、政府が出展した催しを総合的にプロデュースし、世界の子ども400人による祭典を開いた。同じ年に旭日小綬章を受けている。2010年には、ニューヨークのセントラルパークで開かれた「ジャパンデー」で70人の子どもたちと共演し、2012年からは札幌で子どものビッグバンドを指導した。

なぜ渡辺は、子どもと吹くことにこれほど力を注いだのか。ここから先は筆者の仮説だが、1966年に帰国して日本の奏者に理論を教えた人にとって、それは同じ仕事の延長だったのではないか。手に入れたものを自分の中にとどめず、次の誰かに渡す。その相手が、同じ世代の奏者から、これから音楽に出会う子どもたちに変わったのである。

平和を願う音

渡辺の演奏は、平和や支援の場にも向かっている。2011年の東日本大震災のあとには義援のライブに加わり、2022年からはウクライナを支援するチャリティ・コンサートを開いている。

外からの評価も続いた。2015年にはブラジル政府からリオ・ブランコ国家勲章を受け、2016年にはアメリカのホワイトハウスで開かれた「International Jazz Day 2016」に出演している。2021年には、音楽活動70周年の記念コンサートを開き、NHKの連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』のサウンドトラックにも加わった。

2024年には、バラードを集めたアルバム『PEACE』を出し、皇居の桃華楽堂で開かれた、上皇ご夫妻の卒寿を祝う音楽会で演奏した。ここから先は筆者の見立てだが、アルバムの題に選んだ言葉は、ここ十数年の渡辺の活動をそのまま言い表しているように見える。

75周年の年に

2026年は、上京から75年の節目の年である。93歳の誕生日の2月1日には、日本コロムビアが1960年代の10作を初めてデジタル配信し、『JAZZ & BOSSA』や『ブラジルの渡辺貞夫』がいまの音楽配信で聴けるようになった。

5月20日には、2年ぶりのスタジオ・アルバム『BUT BEAUTIFUL』を出している。ピアノのラッセル・フェランテ、ベースのベン・ウィリアムス、ドラムスの竹村一哲とのカルテットで録音した全11曲で、バラードが中心である。記念の全国ツアーも続いており、アルバムの紹介文や報道によれば、いまも年に約70公演のペースで各地の舞台に立っている。

そして10月23日、文化功労者に選ばれた。第1回でふれたとおり、渡辺はコメントで、刺激を与えてくれた音楽家、長年の仲間とスタッフ、家族、聴き手の名を挙げて感謝している。また、これからも聴き手の笑顔を励みに自分の音を追い求めていくとも述べた。93歳の音楽家の言葉でありながら、これは区切りのあいさつではない。次の公演へ向かう人の言葉なのだ。

終わりのない旅

11月5日、渡辺の初めての自伝『ひとつの音 NOW’S THE TIME』が、文藝春秋から発売される予定だ。320ページの本で、出版社の発表によれば、故郷の宇都宮から、東京、アメリカ、帰国後、アフリカやインドへの旅、そして2026年までが、時代ごとの章に分けて書かれている。これまであまり語ってこなかった家族、病、孤独、戦争についてもふれ、次の世代の子どもたちへの、平和への願いを込めたという。

発表に添えられた渡辺の言葉は、「これはもう、終わりのない旅をしているようなものです。」というものだった。公式サイトには、2027年2月の広島や福岡、3月の愛知や滋賀での記念コンサートの予定も並んでいる。旅は、文字どおりまだ続いているのである。

宇都宮の映画館でクラリネットにあこがれた少年は、上京し、ボストンで学び直し、ブラジルとアフリカへ向かい、子どもたちと吹いてきた。75年の道のりを貫いていたのは、居場所ができるたびに、まだ知らない音のほうへ出かけていく姿勢だった。「一心不乱」とは、たぶんそういうことなのだろう。焼け跡で聴いた明るい音は、93歳のいまも鳴りやんでいない。


連載「一心不乱の75年」

  • 第1回 焼け跡で聴いた明るい音――渡辺貞夫、93歳の文化功労者 https://mokujinosite.com/2026/10/29/2026-10-28_1/
  • 第2回 ボストンからの帰り道――渡辺貞夫、「世界のナベサダ」になるまで https://mokujinosite.com/2026/10/29/2026-10-28_2/
  • 第3回 93歳の「終わりのない旅」――渡辺貞夫、75周年の年に(この記事)

次の連載のお知らせ
11月18日(水)に、連載「事件の起きない漫画」――『ちびまる子ちゃん』、原作40周年(全2回)を、2回まとめて掲載する。

あわせて読みたい

  • 倉本聰の連載「追悼・倉本聰」 https://mokujinosite.com/2026/10/02/2026-10-02_1/
  • 伊東四朗の連載「観させていただき、聴かせていただきます」 https://mokujinosite.com/2026/10/12/2026-10-12_1/

新しい記事は、Xでお知らせしている。寝ても覚めてもエンタメ天国 a.k.a.エンゴク https://x.com/wannabeacking

投稿者

寝ても覚めてもエンタメ天国 a.k.a.エンゴク

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